司法書士の視点:戸籍郵送請求のキャッシュレス化とDXへの期待 ~郵便事情の変化も踏まえて~
司法書士として、相続登記、不動産登記、成年後見申立てなど、日々の業務で戸籍謄本や住民票の写しは、ご依頼者様の権利を確実なものにするために不可欠な書類です。
これらの書類を遠方の役所から取得する際、長年にわたり「郵送請求」が主な方法でした。
これまでの郵送請求:定額小為替の負担と「職務上請求」
ご依頼者様のために戸籍謄本等を請求する際、これまでは郵便局で「定額小為替」を購入し、申請書類に同封するのが一般的でした。
この定額小為替、購入に手間がかかるだけでなく、額面にかかわらず1枚あたり200円の発行手数料は、正直なところ、かなり大きな負担だと感じていました。
特に相続案件では、多くの戸籍を全国各地の役所から集める必要があり、その度にこの手数料が積み重なるわけです。
さらに、最近では普通郵便でのやり取りに日数がかかるようになり、お急ぎの案件では速達を利用する場面も増えています。
これもまた、ご依頼者様にご負担いただく費用が増える要因となり、心苦しく思うことの一つです。
司法書士は、法律に基づき「職務上請求」という権限を行使して、ご依頼者様に代わってこれらの戸籍謄本等を請求しています。
これは、迅速かつ確実に必要書類を収集し、法務局や裁判所への各種申請を円滑に進めるための、私たち専門家にとって非常に重要な業務です。
新たな選択肢:郵送請求におけるクレジットカード決済の広がり
そうした中、近年、行政サービスのデジタル化、いわゆるDXの一環として、郵送請求における証明書発行手数料の支払いにクレジットカード決済を導入する市区町村が増えてきたことは、私個人としても大変喜ばしい変化です。
これにより、定額小為替購入の手間や、あの高額な発行手数料から解放されることは、日々の業務の作業効率化に繋がり、大きなメリットだと感じています。
クレジットカード決済導入も、事務手続きの煩雑さは依然として残る
ただ、この便利なクレジットカード決済ですが、手放しで喜んでばかりもいられないのが現状です。
最も大きなポイントは、証明書の発行手数料はクレジットカードで支払えるようになったとしても、申請書や私たちの職務上請求書、本人確認書類の写し(必要な場合)、返信用封筒といった物理的な書類の郵送は、依然として必要であるという点です。
つまり、オンラインで全ての手続きが完結するわけではないのです。
そのため、司法書士としての私の実感としては、依然として事務手続きが煩雑で面倒であるという状況に、実はそれほど大きな変化はありません。
多数の役所に請求を行う場合、それぞれの役所の様式やルールに合わせて書類を準備し、印刷し、封入し、郵送するという一連の作業は、依然として時間と労力を要します。
この点は、今後のさらなるDXの進展による改善を、切に願っているところです。
クレジットカード決済が利用可能な市区町村(2025年5月現在、司法書士の職務上請求での利用が期待できる主な自治体)
以下に、クレジットカード決済の導入が確認されている主な都道府県と市区町村をリストアップします。実際に職務上請求で利用可能か、またサービス内容の詳細は、必ず各自治体の公式ホームページ等でご確認をお願いいたします。
- 北海道:共和町
- 青森県:つがる市
- 宮城県:角田市
- 秋田県:能代市(令和6年10月1日開始予定)
- 福島県:双葉町
- 栃木県:那須塩原市(PayPayも利用可能)
- 千葉県:鴨川市、東金市
- 東京都:墨田区(PayPayも利用可能)、江東区(PayPayも利用可能)、大田区、中野区(PayPayも利用可能)、練馬区、江戸川区、八王子市、武蔵野市、三鷹市、青梅市(PayPayも利用可能)、小金井市(令和7年4月1日より手数料・送料も対応予定、PayPayも利用可能予定)、羽村市
- 静岡県:掛川市(士業・法人限定の場合あり)
- 三重県:志摩市
- 奈良県:宇陀市
- 広島県:広島市
- 山口県:宇部市
- 高知県:大豊町
- 佐賀県:嬉野市(令和6年8月26日開始予定)
- 鹿児島県:鹿児島市(令和7年1月6日開始予定)、志布志市、南大隅町、中種子町(令和6年10月15日開始予定)
- 今後導入予定:東京都 荒川区(令和7年6月予定)、足立区(令和7年7月頃予定)、立川市(令和7年7月頃予定)
司法書士としての今後の展望と個人的な期待
戸籍謄本等の郵送請求におけるクレジットカード決済の導入は、長年の課題であった定額小為替の不便さを解消し、DX推進の観点からも、そして当事務所の作業効率化の観点からも(笑)、非常に意義のある一歩だと捉えています。
これにより、費用面での透明性が向上し、ご依頼者様への説明もよりスムーズになるでしょう。
しかし、先ほども触れたように、申請書類の郵送という物理的な作業が残る限り、私の事務負担が劇的に軽減されるわけではありません。
日々多くの戸籍関連書類を取り扱い、迅速かつ正確な手続きが求められる司法書士としては、やはり将来的にはマイナンバーカードを活用した完全オンラインでの職務上請求や、セキュアな電子データでの戸籍情報連携といった、より踏み込んだデジタル化の実現を強く期待せずにはいられません。
今回のキャッシュレス化は、その未来に向けた重要な布石であると信じています。私自身も、この新しい動きを積極的にキャッチアップし、日々の業務に活かしていくことで、ご依頼者様により良いリーガルサービスを提供できるよう努めてまいります。
そして、さらなる行政手続きの効率化と、それを通じた国民の権利擁護の実現に向けて、司法書士として変化を恐れず、貢献していきたいと強く願っています。