こんにちは。高知県四万十市在住の司法書士の小谷龍司です。
先日公開した記事「定額小為替からの解放?戸籍郵送請求のキャッシュレス化と司法書士の本音」では、戸籍の郵送請求におけるキャッシュレス化の現状と、それでもなお残る事務手続きの煩雑さについてお話しさせていただきました。今回はその課題解決に向けた一つの試みとして、私が個人的に作成した業務効率化ツールをご紹介したいと思います。
相続登記業務の出発点となる、被相続人の出生から死亡までの一連の戸籍収集。この過程で、私が特に手間だと感じていたのが、明治・大正・昭和初期の古い戸籍に記載された「旧地名」の調査でした。
「この本籍地、現在のどの市区町村になるんだろう?」
そう思いながら、役所の合併や編入の歴史をGoogleやWikipediaで一つひとつ調べていく作業は、思いのほか時間と手間がかかるものです。最近ではGoogle検索に搭載されたAI機能により、検索するときにAIモードにして、「高知県安芸郡野根町の現在の自治体は?」と質問すれば、現在の自治体名をピンポイントで教えてくれるようになり、大変便利になりました。長期相続登記等未了土地解消事業の公用請求で自治体名さえ分かれば良い、という場面ではこれで十分かもしれません。
しかし、個人のご依頼者様からの案件となると、職務上請求書を送付するための役所の住所や、郵送請求の方法が掲載されたページをさらに探し出す必要があり、私自身、結局は複数の検索を繰り返していました。
この「あと一歩」の手間を解消し、一連の調査をワンストップで完結させることはできないか。その思いから、GoogleのAI「Gemini」の機能をカスタマイズして、戸籍請求に特化したツール、その名も「戸籍請求先調べるくん」というGemを作成いたしました。
「Gem」とは?
まず、「Gemとは何か?」という点からご説明します。Gemとは、Googleの対話型AI「Gemini」の機能を、特定の目的に合わせてカスタマイズできる機能のことです。例えば、「常にプロの校正者のように文章をチェックして」「複雑な法律用語を小学生にも分かるように説明して」といった独自の指示(プロンプト)をあらかじめ設定しておくことで、その作業に特化した自分だけのAIアシスタントを作成できます。
今回作成した「戸籍請求先調べるくん」は、まさに「旧地名から戸籍の請求先情報を調査する」という作業に特化させたAIアシスタントです。
「戸籍請求先調べるくん」でできること
このGemに旧地名を入力すると、以下の情報をまとめて提示してくれます。
- 現在の管轄自治体
- 自治体の公式サイトURL
- 戸籍の郵送請求案内ページのURL
- 市町村の変遷の概要
- クレジットカード決済への対応状況
実際に、「高知県安芸郡野根町」と入力して実行した結果がこちらです。
【現在の管轄自治体】
高知県 安芸郡東洋町【戸籍郵送請求先情報】
公式サイト: http://www.town.toyo.kochi.jp/
郵送請求案内ページ: http://www.town.toyo.kochi.jp/contents/info0030.php
郵送請求のページを探す: 東洋町を「戸籍 郵送」でGoogle検索した結果
※「郵送請求案内ページ」のURLは、本記事作成時点(2025年10月)のものです。【変遷の概要】
野根町(のねちょう)は、かつて高知県安芸郡に存在した町です。1959年(昭和34年)7月1日に、同郡の甲浦町と合併し、現在の東洋町が発足したことに伴い廃止されました。【クレジットカード決済対応について】
クレジットカード決済に対応していることを示す明確な情報は見つかりませんでした。
郵送請求の際は、手数料分の定額小為替を郵便局でご用意ください。
これまで複数のステップを踏んでいた調査が、一度の入力で完了します。様々な地名でテストしましたが、非常に高い精度で特定してくれました。検索する際は、「県名+郡+市区町村」(例:高知県安芸郡野根町)のように、分かる範囲で情報を詳しく入力すると、より正確な結果が得られます。
ご利用方法
このGemは、Geminiのアカウントがあればどなたでもご利用いただけます。ご利用の環境によって、以下の2つの方法があります。
1.Geminiの有料アカウント(Advanced)をご利用の場合
有料プランをご利用の方は、本記事の末尾でご案内しているファイルをダウンロードしてください。ダウンロードしたファイルの中身を全てコピーし、Geminiのチャット画面に貼り付けて読み込ませてから、調査したい地名を入力することで、ほぼ確実に意図した通りの検索結果を得ることができます。安定した動作と高い精度を求める場合は、こちらの方法が最もおすすめです。
さらに、このツールを本格的に、あるいは継続的にお使いになる場合は、ダウンロードした指示文を使ってご自身の「Gem」として作成・保存しておくことを強くお勧めします。
Gemとして登録しておけば、毎回ファイルをコピー&ペーストする手間が省け、いつでもすぐに「戸籍請求先調べるくん」を呼び出せます。まさに自分専用の調査アシスタントとして、よりスムーズにご活用いただけます。
2.Geminiの無料アカウントでも利用可能
まずは手軽に試してみたいという方は、こちらのリンクにアクセスしてください。「戸籍請求先調べるくん」の画面で調査したい地名を入力すれば利用可能です。
ただし、共有リンクで利用する仕様のためか、あるいは無料版の特性なのか、まれに指示内容を完全に記憶せず、思った通りの検索ができないことがあります。様々な地名で実験し精度は高めましたが、たまに特定に失敗することがある点はご留意ください。
【ご利用上の注意】
このツールは、AIによる検索結果であり、100%の正確性を保証するものではありません。開発にあたり、北海道から九州まで全国の地名を複数の環境(PC、無料・有料アカウント)でテストし、精度向上に努めておりますが、AIの特性上、以下のようなケースが発生する可能性があります。
業務でご利用の際は、あくまで「調査の補助」としてご活用いただき、最終的な請求先の確認は必ずご自身の目で行っていただくようお願いいたします。
■ 想定される具体的なエラー例
- リンク切れ: 自治体のサイトリニューアル等により、提示されたURLにアクセスできない場合があります。
- 自治体名の混同: 複数の候補地が存在する旧地名の場合、意図しない自治体を提示してしまう可能性がゼロではありません。できるだけ「〇〇県〇〇郡」のように、絞り込める情報を入力してください。
- 情報のタイムラグ: クレジットカード決済の対応状況など、最新の情報が反映されていない可能性があります。
■ 無料アカウントでのご利用について
Geminiの無料アカウントでも動作はしますが、テスト段階で、まれに指示を正しく認識せず、キーワードとなる地名を何度か入力し直さないと、意図した結果が表示されないことがありました。(最新版のテストでは誤変換は確認されませんでした。)
最も安定して高い精度で動作するのは、Geminiの有料アカウント(Advanced)で指示文ファイルを読み込ませて使用する方法です。より確実な調査を求める場合は、有料アカウントでのご利用を推奨します。
最後に
今回は、私が趣味の延長で作成した業務効率化ツール「戸籍請求先調べるくん」をご紹介させていただきました。
以前の記事で触れたように、司法書士の業務にはまだまだアナログな部分が多く残っており、「この作業がもう少し楽にならないか」という個人的な思いから作ったものです。もし、「ちょっと面白そうだな」と思っていただけましたら、遊び感覚で試していただけると嬉しいです。
ただ、あくまでAIが出した結果ですので、万が一、間違った市町村に請求書を送ってしまった…といったことがあっても、苦情は受け付けられませんのでご了承ください(笑)。
現状、「郵送請求案内ページ」と「クレジットカード決済対応」については、AIでは情報特定が難しく、力技で自分で検索して指示文に組み込んでいるという力技です。もし、これをAIでより確実に、プロンプトだけで特定できるような方法があれば、ぜひ教えていただきたいです。また、自治体の特定についても、現在は主にWikipediaを検索するようにしていますが、こちらももっと精度の高い方法があれば、ご教授いただけると幸いです。
【Gemini有料アカウント向け 指示文】
テキスト量が膨大になったため、別途ファイルとして提供しております。以下のURLよりダウンロードしてご活用ください。